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プライムパーソン

VOL.209 2017年1月19日

“ものがたり”を積んで 観光列車が四国を走る JR四国 社長 半井 真司さん

4月から始まる四国デスティネーションキャンペーンに合わせ、開業当時(大正12年)の姿に復元されたJR琴平駅。観光列車「四国まんなか千年ものがたり」の停車駅でもある

乗車率9割を超える大人気の列車がある。愛媛県の海岸線を走るJR予讃線のレトロモダンな観光列車「伊予灘ものがたり」。今年4月にはさらに多度津・琴平と徳島県の大歩危を結ぶ「四国まんなか千年ものがたり」がデビューする。

全国的にも注目を集めるJR四国の観光列車の仕掛け人が、昨年6月に社長になった半井真司さん(60)だ。

「地域の文化や歴史を物語風に紹介する列車です。お客さんに一番喜んでもらえそうな路線を選びました」

JR四国の経営状況は厳しい。1987年の民営化以降、鉄道事業は赤字が続き、人口減や高速道路の発達などで、輸送人員は国鉄時代のピーク時の半分以下に減っている。

なぜこの地域で運行するのか。お客さんには何が提供できるのか。JR四国5代目の新社長は「わざわざ乗りに来てもらえる鉄道」を目指し、逆風の中での舵取りに挑んでいく。

15センチで開けた眺望

地域と連携し「四国ファン」をつくる

「観光列車を運行したところでどれだけ収入が上がるのかという声もあった。でも今の時代、ゆっくり観光したいというニーズもある。一人でも多くの『四国ファン』をつくるために、やろうじゃないかとなったんです」

夕日の名所、伊予灘の穏やかな海岸線を走る「伊予灘ものがたり」にはユニークな仕掛けがある。瀬戸内海に面していない山側の座席は、海側より15センチほど底上げしている。「山側は、海側の乗客の頭がじゃまになって景色が悪くなると思いました。眺望を良くしようと座席を上げたら、視界がパノラマのように広がって、逆に山側の座席を好む人も出てきた。私の思いつきでしたが、けっこううまくいきましたね」

景色の良いスポットに近づくとスピードを緩める。車内で提供する食事は2カ月ごとにメニューを変える。「何度も利用してもらえるよう工夫しています」。アテンダントと呼ばれる若手女性社員によるおもてなしの車内サービスも好評で、2014年の運行開始以来、リピーターが後を絶たない。しかし、「この人気は私たちだけの力ではありません。地域の支えがあってこそなんです」

「伊予灘ものがたり」と大洲城=愛媛県大洲市
「伊予灘ものがたり」と大洲城=愛媛県大洲市

大洲城に差し掛かると、地元の人たちが本丸からのぼり旗を列車に向かって振ってくれる。昔タヌキが住みついていたという五郎駅では、沿線の住民がタヌキの着ぐるみで「たぬき駅長」に扮して出迎えてくれる。「自発的に地元のみなさんがやってくれるんです。最初に見た時はありがたくて涙が出ました」


地域との連携が「四国ファン」をつくる大きな武器になる。伊予灘ものがたりの運行で今後の可能性が見えてきたと半井さんはうれしそうに話す。

報道公開された「四国まんなか千年ものがたり」=1月13日、JR多度津工場
報道公開された「四国まんなか千年ものがたり」
=1月13日、JR多度津工場
今年4月には、新たな観光列車が発車する。「コンセプトは大人の遊山(ゆさん)。こんぴらさんや大歩危、小歩危の渓谷美など観光地巡りとセットで小旅行を楽しんでほしい」。弘法大師や平家の落人伝説など1000年の歴史のある四国の真ん中を走る「四国まんなか千年ものがたり」。半井さんが命名した。「最初は長ったらしい名前だと言われましたが、ようやく定着してきました。お客さんにはその地域ならではの“ものがたり”を感じてもらいたいですね」

サンポート開発で指揮

神戸大学工学部を卒業後、技術者として国鉄に入った。「当時は東北や上越新幹線の建設に沸いていた。私も橋やトンネルなど大きなものを作ってみたいという憧れがありました」。しかし、主に歩んだのはものづくりの現場ではなく、「鉄道の高架計画や国鉄が所有する土地の再開発といった“計画屋”的な仕事が多かったですね」

分割民営化に伴い、地元のJR四国に移った。そこで、大きな仕事が巡ってきた。サンポート開発だ。10年近くに及ぶ巨大プロジェクトの実質的な責任者を任された。「駅ビルの施工計画を作り、当時の駅舎を生かしながら新駅の開業計画を立てる。いわゆる公共事業ですし、苦労の連続でした」

当初駅ビルは今の4倍ほど、駅舎は2倍ほどの大きさになる予定だった。だが、バブルの崩壊で景気が低迷し、テナントの入居は難航。半井さんは厳しい決断を迫られた。「計画はかなり進んでいましたが、規模を縮小せざるを得ませんでした」

新しい高松駅ができて15年余りが過ぎた。今ではサンポート周辺は、日課の散歩コースになっている。「大きな箱モノを作るのをやめた当時の判断は、結果としては間違っていなかった。この先景気が良くなれば、また新しいことにもチャレンジできる。毎朝歩きながら、そんなことをしみじみと思うんです」。サンポート開発は自分自身をランクアップさせてもらった貴重な経験だった、と懐かしそうに振り返る。

「四国家の一員」として

国鉄の分割民営化から今年で30年。JR四国は民営化以降、本業の鉄道事業で一度も黒字化したことがなく、国からの支援に当たる経営安定基金の運用益で赤字を補填している。「国鉄改革で生まれた会社ですが、最大の目標は自立です。何とかして体質を改善しなければと思っています」

「JRクレメントイン高松」の外観イメージ(右)
「JRクレメントイン高松」の外観イメージ(右)

来年秋、JR高松駅前に新ホテル「JRクレメントイン高松」が誕生する。総事業費は約30億円、宴会場や結婚式場を持つ「JRホテルクレメント高松」とは差別化した割安の宿泊特化型ホテルだ。「将来は全国にも展開できるような新たなビジネスモデルを作りたい。鉄道以外の部分も強化する必要があります」


半井さんが繰り返す言葉がある。「私たちは『四国家の一員』なんです」

四国という家族の一員として、地域が一丸となって将来を考えなければならない。例えば四国に新幹線は必要かどうか。「今では北海道から九州まで繋がり、高速道路と同じ交通インフラの一つになった。決して特別なものではない」というのが半井さんの考えだ。「四国のポテンシャルを上げるためにも、地域格差を生まないためにも新幹線は必要だと思う。今後の公共交通はどうあるべきか、地元とも本音で議論し、理解し合っていかなければならないと思います」

4月、JRグループと地元自治体がタッグを組む「四国デスティネーションキャンペーン」が始まる。こんぴらさんの文化財や瀬戸内のサンセットクルーズなど、四国ならではのスポットを鉄道とセットで提案する大型観光キャンペーンで、地元と一体になる絶好の機会だ。「地域にマッチしたもので地域と一緒にお客さんをおもてなしする。楽しんで気に入ってもらえれば、交流人口に留まらず、定住人口増にも繋がるのではと期待しています」

半井さんはJR四国初の四国出身社長だ。出身だからこそ良い点悪い点を一歩引いた目で見なければならないと話しながらも、「四国が大好きなので、他の地域には絶対に負けたくないですね」 思い描く夢がある。「四国には景色の良いところや訪れてほしいところがまだまだある。ゆっくりと四国を巡ってもらえるよう、もっといろんなところで観光列車を運行できたらいいなあと思っているんです」

編集長 篠原 正樹

はんい しんじ

  • 1956年 徳島県三好市生まれ
  • 1978年 神戸大学工学部 卒業
    日本国有鉄道 入社
  • 1987年 四国旅客鉄道 総合企画本部経営管理室副長
  • 1995年 高松駅周辺整備推進室長
  • 2004年 取締役経営企画部長
  • 2016年 代表取締役社長

四国旅客鉄道株式会社

所在地
高松市浜ノ町8-33
地図
設立 1987年4月1日
資本金 35億円
社員数 2507人(2016年4月現在)
事業内容 旅客鉄道事業、旅行業 他
URL http://www.jr-shikoku.co.jp/

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