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プライムパーソン

VOL.212 2017年3月2日

金刀比羅宮参道にある創業当時の白壁の酒蔵を復元した「金陵の郷」=仲多度郡琴平町

1658年(万治元年)創業の香川が誇る老舗酒蔵、西野金陵。350余年の伝統と歴史を背負うのが18代目当主の西野寛明さん(42)だ。一昨年5月、40歳で先代の父・武明さんからバトンを受け取った。「私の代で会社をつぶすわけにはいかないというプレッシャーはあります。でも、伝統に縛られず、変えるべきところは変えていきたいと思っています」

西野家の長男として生まれた。幼い頃、親に「バスの運転手になりたい」と言ったら、「何言うてるの。あんたはここの当主になるんや」と頭から否定された。夢を見ることすら許されない人生を恨めしく思い、親に反発したこともあった。しかし、「ある時、ふと気づいたんです。これまで暮らしてこられたのは誰のおかげかと」。社長就任時、社員を前にこう言った。「今は厳しい時代ですが、私のおむつ代を稼いでくれた皆さんと一緒に精一杯頑張っていきます」

社長になり、夢ができた。「この会社に入って良かった」。社員にそう思ってもらえる会社をつくることだ。

香川を代表する日本酒「清酒金陵」で知られる西野金陵。売上の半分は香川を拠点とする酒造と酒類・食品卸売業だが、大阪を拠点とする化学品事業があと半分を占める。

化学品事業では、衣類やカーシートを染める染料、家電や文房具に使われる合成樹脂、トナーやインクに使われる工業薬品などを販売。上海やタイにも進出するなど幅広く展開している。「私も年中、香川と大阪を行ったり来たりで、なかなか落ち着かないですね」

1658年、阿波で染料となる藍の商いを始め、その後8代目当主が琴平で新たに酒造業に乗り出したのが西野金陵のルーツだ。「かつては日本酒が好調で、化学品事業がお荷物だったこともありました。でも今は化学品が育ち、厳しい酒類事業を助けてくれている。今後もお酒と化学品の二本柱で補い合っていきたいと思っています」

2つの事業は、これまで混ざり合うことはなかった。拠点も違えば、採用や人事、給与体系も別で、従業員同士の交流もなかった。「完全な独立採算制で、会社が2つある感じでした」

化学事業部と酒類部が
共同開発した「金陵 琥珀露」
 
 

3年ほど前、化学品事業部と付き合いがある三菱化学から、酒づくりで「新商品を一緒に作らないか」と持ち掛けられた。三菱化学が開発した、高い透過性や分離性を持つ最新の高機能膜素材「ゼオライト膜」を活用したいというものだった。

化学品事業部が酒類部に協力を仰ぎ、二本柱のタッグが実現した。ゼオライト膜で旨味とアルコール成分を濃縮させ、なめらかな甘みと重厚な酸味が調和した「琥珀露(こはくつゆ)」が誕生。全国的にも注目されるヒット商品になった。「化学品の良いところとお酒の良いところを繋ぎ合わせたらええんちゃうの、という形で進めました。一つだけだとできないこともあるし視野も狭くなる。これまでになかったケースで、長年両方をやってきた良さが出ましたね」

そんなん変えたらええやん。社長になってからの西野さんの口癖だ。数十年前の古い建物のまま引き継がれていた社宅を取り壊し、マンションなどの借り上げ社宅を始めた。日本酒業界はかつて女性が携わるのを嫌がる風習があったが、女性社員を積極的に登用した。「藍」「白」「緑」「紅」の日本の伝統色をテーマに開発した売り出し中の新酒「NIPPON COLORS」は、女性社員のアイデアから生まれた。

「NIPPON COLORS」。左から「純米吟醸 濃藍(こいあい)」「吟醸 月白(げっぱく)」
「特別純米 千歳緑(ちとせみどり)」「本醸造 真紅(しんく)」
 

歴史がある分、変化するのは簡単ではない。「代々この手法でやってきたから」と暗黙の了解のまま進んでいくことも多い。だが、「良いところは継続しながらも、見直すべきところは見直していく。それが私の仕事だと思っています」

高松市で生まれ、兵庫県宝塚市で育った。敷かれたレールを嫌い、高校を卒業したら就職しようと思っていた。しかし、母親に「せめて大学だけは行ってほしい」と泣きつかれ進学。やがて家業を継ぐ覚悟を固め、キリンビールに5年務めたのち、西野金陵に入った。

「350年続く会社だから大変ですねとよく言われますが、真面目に一生懸命やるだけです。それが、社員みんなに育ててもらった私の使命ですから」

入社後は香川で酒類事業を担当した。高松や琴平では友人も知り合いもいない西野さんの支えになったのが、若手経営者らでつくる高松青年会議所(高松JC)だった。「私自身、西野金陵の跡取りだと鼻に掛けていたところがあったと思います。でも、JCのメンバーは『それがどうした』『そんなん関係ないやろ』と、きちんと怒ってもくれたし、私の鼻をへし折ってもくれました」

将来のまちづくりについて夜中まで議論したり、朝まで飲み明かしたりすることもあった。「JCの集まりでは『誰に人がつくのか』がよく見えるんです。お金があっても人はついてこない。会社の大小でもない。その人が持つ徳や明るさ、リーダーシップや人付き合いとは何なのか。多くのことを学ばせてもらいました」

12年間所属し、積極的に活動に参加した。理事長以外すべての役職を務めた。仕事との両立は大変だったが、「あの時期を経験せずに社長になっていたら、恐らく私は勘違いしたままだったでしょうね」。西野さんは懐かしそうに振り返る。

入社して10年余りが過ぎた頃、父親から「そろそろ代わるぞ」と告げられた。「ついにその時が来たかと思いました」

それまでは、会社の歴史を気に留めることは一切なかった。しかし社長になり、様々な場所に顔を出す度に、「うちのおじいさんが働いていた」「おばさんがとても世話になった」と次々に声を掛けられた。「会社のことを悪く言う人が一人もいないんです。金陵は良い会社なんだというのがずっと積み重なって受け継がれている。ああ、これが歴史なのかとやっと気づきましたね」

清酒金陵は古くから「讃岐のこんぴら酒」と呼ばれ、金刀比羅宮の御神酒として全国から集まる参拝客に愛されてきた。「飲むとガツンというパンチがあって、ズシンと腹に染み込んでくる。深みのある『男酒』です」

しかし現在、日本酒市場は全国的に厳しい状況にある。出荷量は毎年5~6%減少し、30年前の半分に落ち込んでいる。アルコール飲料自体、焼酎、ウイスキー、ワインにカクテルと多様化が進み、「中でも日本酒は今、さらっとした飲み口の『女酒』が人気です。金陵とは対極にありますね」

旨いお酒をつくりたいと西野さんは話す。“旨い”とは一体どんなものなのかを尋ねると、「それが難しいんです。考えれば考えるほど悩みが深くなっていく。今の金陵が好きなのに、変わったら嫌だというお客さんもいる。品質も上げなければと思うが、素朴さが好きなんだという声もあります」

返答に苦しみながらも、西野さんは力強くこう続けた。「答えはなかなか見つからないと思います。でもこの先も悩みながら、ずっと旨いお酒を追い求めていきたいですね」

編集長 篠原 正樹

  • 1974年 高松市生まれ
  • 1997年 大阪工業大学工学部 卒業
    キリンビール 入社
  • 2002年 西野金陵 入社
  • 2007年 常務取締役
  • 2015年 代表取締役社長

所在地
本店:仲多度郡琴平町623
化学品事業部:大阪市中央区久太郎町1-6-9
酒類部:高松市亀井町2-8
創業 化学品事業部:1658年・酒類部:1789年
資本金 2700万円
事業内容 染料・化学工業薬品・合成樹脂等の販売・輸出入
清酒醸造、酒類・食料品等の製造・販売
郷土資料館の経営を核とした観光業
社員数 194人
地図
URL http://www.nishinokinryo.co.jp/

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